もう少しだけ旅させて

旅日記、のようなもの(2012-16) 基本一人旅 旅に出てから日本語を使わないので、忘れないように。ほとんど本人の備忘録になりつつあります。情報は旅行時のものです。最近はすっかり懐古モードでひたすらノスタルジーに浸っています。

カノープスを探す

部屋の前のルーフテラスの正面には南の夜空が拡がっている。月が明るいのでそれほど星はみえないが、オリオンは天頂に判った。そこでシリウスを確認し、カノープスを探す。低い角度はうっすらと雲があるようだけど大丈夫、黄色く光る星が見えた。近くにも明るい星が点在し、それらは旧アルゴ座の一部だろう。
冬の星空はどこで見ても美しい。それが身を切るような寒さの中でも、蚊に悩まされながらTシャツ半ズボンでも汗ばむ熱帯の夜でも。


小さい頃宇宙や星に関心があった。興味の一つがカノープス、何とかして見てみたいと思っていた。愛読していた野尻抱影氏の著作によれば確か東京で地上2度の位置。沖縄や小笠原など南の島に行かなければ無利な話だった。

当時から、星空を見上げ始めると時間を忘れるほど熱中することがままあった。あの美しい星の配列を眼を凝らして眺めていると、やがて自分の存在が無限の宇宙の中に吸い込まれてしまうかの様な感覚に陥る快感を、その歳にして知っていたようだ。

その後時は流れ、色々なことに興味を持っては失い、また思い出しては忘れてきた。しかし、夜道で眼にする冬の夜空は常に魅惑的で、心の片隅にはカノープスを見たいという願望が消え去らずに残っていた。


初めて眼にしたのは、バンコクの安宿でのこと。夜部屋で一人でぼうっとしている時に、突然思い出した。

 -----今は1月、見えるかもしれない!

バンコクの空気は汚れていて、星なんて東京の中心部以上に見えない。ただ、緯度は低いし、雲さえなければ明るい星だから… 
とりあえず廊下の突き当たりにある小さなバルコニーへ出た。夜空を見上げると運よく雲は出てないようで、さらに南向きだった。うっすらと、でも見間違うこと無きオリオンが天頂近くにぶら下がっていた。三ツ星を延長してシリウスを確認し、そこから下の方に眼を移すと…
そこに、あった。黄色く光る明るい星が、建物の間の妙に赤っぽい夜空に瞬いていた。

長い間思い続けてきた割には、なんだかあっけない幕切れだが、得てしてそういうものだ。南に下りて来ているのだから、季節さえ合えば見えて当然のことではある。


その後の東南アジアやインドでも、また南米旅行中も、何度か眼にしている。今はもう特に心が動かされるわけではないが、その度に旅に出ていることの実感を静かに受け止めながら眺めていた。

ここゴールでの夜空もその仲間入りだ。雲が拡がる気配は無さそうだ。カノープスを眺めながら、しばらくの間、スリランカの旅の空の下で眠ることのできる喜びをしっかりと受けとめた。