TU712 CMN-TUN
久々のフライトだった。カサブランカのムハンマド5世国際空港からチュニス・カルタゴ国際空港まで。
2時間20分の短いフライトだが、昼時なので食事が出た。気前よく丸いパンを2個くれたが、肝心の肉料理の味付けがあまりよくない。これ、何の肉だろう? と一瞬考えた。
"TUNIS AIR" は "チュニザール" と発音しているように聞こえた。
空港のイミグレで入国スタンプを押してもらう。小さい。
ページ一杯の大きなビザが欲しいなあ。
今回の旅行は既に半年近くにもわたるのに、そのような立派なビザ(シール、スタンプ問わず)は、出国前に日本で受け取ったインドビザだけだよ。まったく何てことだ。
空港からバスに乗り、チュニス新市街のマリンステーション近くのバス停で降りる。
ここは終点だが、ターミナルの様な雰囲気はなく、場末のうらぶれた雰囲気が漂っていて、思わずニンマリしてしまった。そういう感じが好きなもんで…
小さな食料品店でコーラを買い、トラム乗場の場所を訊いたが、尋ねる程の距離でもなかった。
だいたい分かっていたのだが、店番の少年とちょっと話をしてみたかったということだ。
安宿は鉄道駅近くに何軒かあるので、トラムをバルセロナ広場で降りた。
この辺り一帯には商店が多く、早い時間帯には露店も多数あらわれ人出で賑わうのだが、それは後で知ったこと。
この時は日曜日それも午後遅い時刻。もともと店の多くは休みのうえ露店など皆無だった。シャッターが下ろされひと気の少ない通りの路上には、多くのゴミが寂しくうち捨てられていた。
うらぶれているなあ
だからこれがチュニスの第一印象。(もちろん本当の姿は違う)
*
メディナの中にあるユースまで行ってもよかったのだが、なんだか歩く気にならず、広場から少し入ったところにある安宿に決めてしまった。
最初に見せてもらったシングルはドアの鍵の具合が悪く、次の部屋は窓の調子が良くない。
そんなで、普通だったら別の宿に移るところだが(その界隈には他にも宿は多い)、この宿に何かを感じていた僕はさらに別の部屋を尋ね、3階の広くて少し部屋代の高い角部屋の鍵をもらった。
結局その部屋には2泊したのだが、終いにはもっと居たいと思う位のお気に入りとなった。
十分な空間のある部屋で天井も高く、通りを見下ろす窓もあるが、決してきれいでも清潔でもない。まず、古びている。
でもその部屋に足を踏み入れた瞬間に、何か無視できない雰囲気を感じ取った。
簡単にいえば、ここは良き日々は過ぎ去りゆっくりと朽ち果てる途上にあるオテルだ。
かつての、出来て間もないきれいなそのホテルが、旅行者で賑わった日々を想像してみる。
それからどのくらいの時間がたったのかは分からない。様々な人が出入りし、無数の出来事が起きた。
玄関やロビー、階段、そして部屋内の細かいディティールのひとつひとつは、このホテルの歴史の断片でありかつての日々を思い起こす手助けしてくれる欠片だ。
いろいろなものが積み重なって醸し出される、どちらかといえば重い空気が建物内に漂っている。
でも、その中で過ごす時間は妙に居心地が良い。普段の生活では知ることのない種類のエーテルにぼわっとくるみ込まれるような感覚がある。
旅をしていれば毎日が偶然のめぐりあわせの連続だ。このような宿に出くわすこともまた然り、その度に嬉しくも不思議な気持ちになる。
夜遅く、TVを消し、静まり返った部屋で一人ベッドに寝っ転がり、いろいろ考えてみる。
あまり深く思考を走らせず、ゆっくりとまったりと転がるように、多くのことを静かに思う。
そんな緩い感覚の中で眠気に包まれ一日を終えるということは、異国の空の下で味わう至福以外の何物でもない。