東アフリカの雲が好きだった
もう、あの東アフリカの雲が見られないのかと思うと、とても残念だ。
遠くまで広がる黄色い草原とまばらに散らばる深緑色の木々。その上を遮る物なくどこまでも拡がる空に、まるで綿菓子をちぎって投げつけたかのように浮かぶたくさんの雲。
風がその雲を運び込んでは流してゆく。青空が続くこと、雲が立ち込めたままなこと、どちらも少なかった気がする。常に天気は変わりやすく、強い雨が降ったかと思えばいつの間にか日差しが戻っていたことも多い。
そして空を見上げれば、量塊感があり力強くも愛嬌すら感じられる雲がいつも浮かんでいた。
正直アフリカの旅は楽なものじゃない。まあいろいろあって心身ともにくたびれ果てるのは今まで数多くの旅行者が言及してきた通りなのだが、それに見合う程度の旅の楽しさというものを最終的に受け取ることができるのだろうか。ここ最近は辛かったり面倒だったりを気にすることが多くなっていた。
今ひとつ楽しんでいないな、そんなで良いのだろうかといささか釈然としない気分を抱いたまま、気分を変えるために視線を上げると、空にはいつもの雲が常に浮かんでいた。それを眺めて気分が和んだこともままあった。
移動中のバスの中からもよく見かけた。ケニアやタンザニアでは正直言ってあまり変わり映えのしない車窓風景(嫌いなわけではない)だったが、それでも飽きもせず眺め続けていられたのは、雲のおかげだ。この雲たちを眺めていると、不思議に以前の旅の記憶が蘇ってきた。外の風景を見続けながらいつの間か頭の中は過去の回想シーンとなっていたことが時々あった。雲が色々な記憶を運んできてくれたなんていうつもりはないが、無意識のうちに何かのきっかけとなっていたのだろうか。
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ヨハネスブルグから東へ向かう。穏やかな色彩でなだらかな起伏の丘が続き、森や林の木々には人の手が入り整えられている。時々現れる集落。コンビの走る道路はハイウエイのように幅広で車をスムーズに運んでくれる。
今迄のようなアフリカ的ワイルドさが無い。まるでヨーロッパの田舎のようだ。
そして何より、空が違う。雲が、日本で見慣れた雲とそう違いはない。
これが温帯の空なのだろう。日常生活において長年見慣れた空と、そう違いはない。
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